顧問先から採用の相談を受けたら、税理士事務所はどこまで支援できるのか?~税理士事務所が行う採用支援の可能性~
- 斉藤永幸
- 7月19日
- 読了時間: 14分

先日、立て続けに二つの税理士事務所から同じ相談を受けました。それは「採用支援を新しいサービスとして提供できないか」というものです。
一方は、自事務所の採用を担当した職員が採用業務に興味を持ったことがきっかけでした。もう一方は、決算・申告だけでは将来に限界を感じ、新しい付加価値サービスを模索していた事務所です。
両事務所に共通していたのは、「顧問先から採用の相談が増えている」という実感でした。
事務所に企業の採用に関するノウハウの蓄積もなく、求人に関するネットワークもありません。そこでまずは簡単な状況整理と税理士事務所が行う採用支援の限界、可能性などについて話をさせていただき、今後本格的に採用支援サービスを立ち上げる場合には、継続的にその仕組みづくりを支援させていただくことになりました。
私自身、税理士事務所の支援を専門としていますが、以前には大手求人媒体に勤務していた経験もあり、企業の採用支援もかなりの数を行ってきました。そこで今回はその経験も踏まえ、「税理士事務所が顧問先の企業に対して採用支援をサービスとして提供する」ことについて考えてみたいと思います。
1.採用の相談は、いま税理士事務所に最も集まりやすい経営課題
中小企業の経営者が、いま最も頭を抱えているテーマの一つ、それが「採用」です。
顧問先から寄せられる相談の内容は、どの事務所でもほぼ共通しています。
人が採れない
応募がまったく来ない
給料をいくらに設定すべきか分からない
パートを増やしたいが、どこから手をつければいいか分からない
若手が定着せず、育てても辞めてしまう
こうした“人に関する悩み”は、ここ数年で確実に増えています。しかも、経営者はこれらの悩みを 税理士事務所に相談する ようになっています。
なぜか。理由はシンプルで、経営者が最も信頼している相談相手が税理士だからです。資金繰り、投資判断、給与設計、事業計画―― 経営の根幹に関わる相談を日常的にしている相手だからこそ、「採用の悩みも聞いてほしい」と自然に流れてくるのです。
あなたの事務所でも、こうした相談を受けた経験はありませんか。気づけば、毎月の巡回監査や月次面談の中で、“人の話題”が半分以上を占めている――そんな事務所も少なくありません。
このように、税理士事務所は数字の相談だけでなく、人の相談も集まる時代に突入しています。
採用は、もはや経営者だけで抱え込める課題ではありません。 そして、税理士事務所がこの領域に関わる必然性が、確実に高まっているのです。
2.採用は経営課題だからこそ、税理士事務所が支援できることは多い
ただ、税理士事務所が採用支援を行う、ということに違和感を覚える方もおられるかもしれません。しかし、採用支援と税理士事務所は実は相性が良いのです。
採用の悩みは、実際にはほぼすべてが経営数字と直結する課題です。
人が採れなければ、売上は伸びず、既存社員の負担が増え、離職率が上がります。採用に失敗すれば、教育コストが無駄になり、定着率が下がり、再採用の費用が発生します。給与設定を誤れば、 人件費が膨らみ、利益率が崩れ、経営計画そのものが狂ってしまうのです。
つまり採用は、
人件費
利益
生産性
教育
定着率
組織の成長スピード
こうした“経営の根幹”に直結するテーマです。
だからこそ、採用は本来、経営の視点で語られるべき課題なのです。そして、この「経営の視点」を最も深く理解しているのが税理士事務所です。
もちろん税理士は採用の専門家ではありません。しかし、 採用を“数字で語れる人事”に変換できる専門家 にはなれます。
たとえば、「何人採るべきか」「給与はいくらが適正か」「採用が利益にどれだけ影響するか」「教育コストをどう回収するか」……、こうした判断は、経営者だけでは難しい領域です。数字を扱う税理士だからこそ、採用を“経営課題として整理する力”を発揮できます。
つまり、税理士事務所が採用支援に関わることは、決して領域外の仕事ではなく、経営支援の延長線上にある、極めて自然な役割であり、税理士事務所の新しいサービス領域としての可能性を持った分野なのです。
3.採用支援には法律上のルールがある
顧客からのニーズがあり、税理士事務所ができることは多い。だからといってすぐに採用支援を行おうとすると落とし穴があります。それが法律上の規制です。
税理士事務所が採用支援を行う際、法律上”踏み込んではいけない領域”が存在するのです。
とくに注意すべきなのが、 職業安定法(第4条)で定められた「職業紹介」や「委託募集」に該当する行為です。
税理士事務所が採用支援を行う際、次のような行為は法律上の規制対象となる可能性があります。
求職者を紹介する
「この会社に応募したら?」と応募を勧める
合否判断を代わりに行う
スカウト送信を代行する(報酬を受けて行う場合)
これらはすべて、「人を紹介する仕事」=職業紹介事業として扱われる可能性があり、原則として許可が必要です。
税理士事務所が普段行っている「助言」「改善」「事務支援」とは性質が異なり、一歩踏み込むだけで法律抵触してしまうケースがあります。
とはいえ注意すべきポイントは一つです。
“人を紹介する行為には許可が必要である”
このルールさえしっかりと認識していれば、税理士事務所は安心して採用支援に取り組むことができますし、顧問先からの相談にも適切な線引きを持って対応できます。
採用支援は、法律を正しく理解したうえで行えば、税理士事務所にとって大きな価値を生むサービスになります。
4.税理士事務所が提供できる採用支援
法律上の線引きを理解したうえで、税理士事務所が安心して提供できる採用支援は実はとても多くあります。しかもその多くが、経営数字を扱う税理士だからこそ価値を発揮できる領域です。
ここでは、税理士事務所が“合法的に”、そして“高い付加価値を持って”提供できる採用支援を整理します。
● 採用計画づくり(採用の全体設計)
採用は「何人採るか」から始まります。 しかし、多くの中小企業はこの計画が曖昧なまま採用活動を始めてしまいます。
税理士事務所なら、
必要人員の算定
人件費の増減シミュレーション
採用による利益インパクト
採用後の教育コストの見積もり
こうした“数字に基づく採用計画”を一緒に作ることができます。
経営者にとって、これは非常に心強い支援です。
● 求人票の改善(応募が増える最も効果的な支援)
中小企業の求人票は、ほぼ例外なく情報不足です。仕事内容が曖昧で、魅力が伝わらず、応募が来ない原因になっています。
税理士事務所は、
会社の強み
経営者の価値観
組織の特徴
経営数字から見た魅力
これらを把握しているため、求人票の改善に最適な立場です。
「何を伝えるべきか」を整理するだけで、応募数が大きく変わることも珍しくありません。
● 採用広報(会社の魅力を伝える支援)
採用ページや会社紹介資料は、採用の成果を左右する重要な要素です。
税理士事務所ができるのは、
採用ページの改善ポイントの助言
会社の魅力の言語化
経営理念や数字を使ったストーリーづくり
など、“第三者視点での改善”です。
専門的な制作は外部に任せればよく、税理士事務所は「何を伝えるべきか」を整理する役割を担えます。
まずはこの3つを主軸にすることをお勧めします。
また、採用支援にあたっては、AIの活用支援なども同時に進めると効率も高まります。
(採用の領域でもAIを使うことで、その質を大きく高めることができます。実際にAIを活用している事務所は、そのノウハウを伝えることで、 顧問先にとって“新しい価値”の提供となります)
その上で、将来的には以下のような支援なども行えるようになると、さらにサービスの価値は高まります。
● 面接支援(面接官教育・質問内容の整理)
数字を扱う税理士は「どの能力が業績に影響するか」などを把握しているので、面接の評価基準を整理できるのが強みです。
● 採用フロー改善(応募〜入社までの流れを設計)
採用の一連の流れを整理し、 “誰が・いつ・何をするか”を明確にし、採用フローが整うだけで、採用の歩留まりが大きく改善します。
● 採用事務代行(日程調整・書類整理など)
採用には多くの事務業務が発生します。これらは一般的には採用事務として行われる支援であり、応募者の紹介や合否判断などに関与しない範囲であれば提供しやすい業務です。
※AIの活用によりパートスタッフによる入力などの負担が減少した分、この事務代行を行うことで人材の効果的な役割転換を図ることも可能です
● まとめ:採用支援は小さく始める
法律のルールを守りながら、 助言・改善・事務支援に徹することで、税理士事務所は採用支援の分野でも、強力なパートナーになれます。
ただ、いきなりすべての支援メニューを提供する必要はありません。
第一段階:求人票添削
第二段階:採用計画
第三段階:採用広報
第四段階:採用プロジェクト伴走
最初は求人票の添削や採用計画の作成など、小さな支援メニューから始める事務所が多いでしょう。内容によっては月額数万円程度のオプションサービスとして提供することも十分可能です。
採用計画や採用広報まで携わるようになれば、顧問料として新たな料金設定などを行うこともできます。
5.税理士事務所は「採用プロジェクトの司令塔」になる
ただ、採用支援を充実させるためには、税理士事務所がこれまで培ってきたもの以外のネットワークの構築が必要となってきます。
これまで税理士事務所が協力して業務を行うというと、他士業や銀行・保険会社といった金融機関などが中心だったと思います。
しかし採用は、ひとつの専門領域で完結するテーマではありません。
採用に関わる様々な分野でそれぞれに専門家が存在し、役割が異なります。
これらをすべて自分たちだけで完結する必要はありません。むしろ税理士事務所が司令塔としてかかわることで、採用プロジェクトは最も効果的に進みます。
● 採用で連携すべき専門家たち
採用支援を進めるうえで、税理士事務所が連携すると効果が高い専門家は次の通りです。
社労士 → 労務条件、給与設計、就業規則、労働法の観点からの助言。
人材紹介会社 → 専門職や即戦力採用が必要な場合の候補者紹介。
求人広告会社・求人広告代理店 → Indeed、求人媒体、広告運用の最適化。
採用サイト制作会社 → 採用ページの改善、会社紹介のデザイン。
カメラマン → 会社の魅力を伝える写真撮影。
税理士事務所がこれらの専門家と連携することで、 顧問先は「誰に何を頼めばいいのか」という迷いから解放されます。
● 司令塔としてプロジェクトの伴走を
採用は、複数の専門家が関わる“プロジェクト”です。しかし、経営者がすべてを管理するのは現実的ではありません。
そこで、税理士事務所が司令塔となることで、プロジェクトの機能を高めます。
採用計画の整理
必要な専門家の選定
予算の管理
スケジュールの調整
採用フローの設計
経営者との意思決定支援
税理士事務所は、経営者の最も近くで数字を扱い、 事業の方向性を理解している存在です。
だからこそ、採用プロジェクト全体を俯瞰し、「どこに投資すべきか」「どこを改善すべきか」を適切に判断できます。
●ワンストップサービスを採用という領域まで拡大する
こうした司令塔的な役割は、税理士事務所と非常に相性が良い役割です。
多くの税理士事務所が顧問先の悩みに応じて、弁護士・司法書士・行政書士などの他士業や金融機関と連携し、様々な問題を解決してきました。これを「採用」という領域でも同じような役割を担うことになります。
そもそも採用に悩む経営者は「何から手を付ければいいか分からない」「誰に相談すればいいかわからない」という不安を抱えています。
この不安に対し、税理士事務所が司令塔としてかかわることで、経営者は安心して「採用」に、そして企業経営に取り組むことができるのです。
税理士事務所は、採用を代行する存在ではありません。 採用を成功させるために、必要な専門家をつなぎ、プロジェクトを前に進める“伴走者”です。
この立ち位置こそが、税理士事務所の採用支援の価値を最大化します。
6.採用支援を行うことで得られる税理士事務所のメリット
税理士事務所は本来、決算や申告を行う存在であり、採用などに関わるべきではない。そうした意見を持つ方も多いでしょう。しかし採用支援を行うことで、税理士事務所には様々なメリットがあります。
むしろ事務所の経営・組織づくり・サービス価値が一段階上がるといって過言ではありません。
ここでは税理士事務所が採用支援に取り組むことで得られる”意外なメリット”について整理します。
● 顧問先との接点が増える(関係性が深まる)
採用は、経営者が最も頭を悩ませるテーマの一つです。その相談に乗ることで、月次や決算とは違う“深い話”ができるようになります。
経営者の価値観
組織の課題
将来の事業計画
人材戦略
こうした本質的なテーマに触れることで、顧問先との信頼関係を一気に深めることができます。
● 経営相談が増える(経営支援型事務所へ進化)
採用は経営数字と直結しているため、採用支援を行うと自然と経営相談が増えます。
人件費の設計
投資判断
組織再編
生産性向上
教育体制の整備
採用支援を入口に、経営全体の相談が増えるという好循環が生まれます。
● 顧問料の付加価値が高まる
採用支援は、「税務とは直接関係がないように見えて、実は経営改善に直結するサービス」です。
そのため、
顧問料の値上げ
オプションサービス化
経営支援パッケージ化
など、事務所の収益改善にもつながります。
● AI活用の機会が増える(事務所のDXが進む)
採用支援は、AIとの相性が非常に良い領域です。
求人票の改善案
面接質問の生成
採用広報の文章作成
採用フローのテンプレート化
こうした業務をAIで効率化し、ノウハウを蓄積することで、事務所全体のDXが一気に進みます。
● 若手職員が“経営を学ぶ”絶好の機会になる
採用支援は、若手職員の成長にも直結します。
経営者との打ち合わせ
組織課題のヒアリング
採用計画の作成
面接官教育の補助
採用フローの改善
こうした経験は、若手が「数字だけでなく、経営を理解する人材」へ成長する大きなきっかけになります。
● 自事務所の採用力が向上する(最大のメリット)
顧問先に提供しているノウハウをそのまま自事務所に活かせるため、 採用力が自然と高まります。
これは、採用難の時代において非常に大きなメリットです。
● まとめ:採用支援は“事務所の成長戦略”にもなる
採用支援は顧問先のためだけではありません。 税理士事務所自身の成長にも直結するテーマです。
顧問先との関係性が深まる
経営相談が増える
顧問料の付加価値が上がる
AI活用が進む
若手が育つ
自事務所の採用力が上がる
採用支援は、 事務所の未来をつくる新しいサービスと言えるでしょう。
結論:顧問先との新しい関係を築くチャンス
従来の考え方では、採用支援は税理士事務所にとって関係のない領域に思えるかもしれません。
しかしここまで整理してきたように、採用は経営の数字と密接に結びついた経営課題そのものです。そして近年、税理士事務所は、単なる決算や申告といった限られた領域にとどまるのではなく、この経営課題にいかにアプローチするか、が重要になってきています。だからこそ経営支援の延長として、採用に関わることは必然ともいえます。
ただし、税理士事務所は採用を代行する存在ではありません。応募者を紹介したり、合否を判断したりする“職業紹介”の領域に踏み込む必要はありませんし、踏み込むべきでもありません。
税理士事務所が担うべき役割は、もっと本質的で、もっと価値の高いものです。
税理士事務所は採用の代行者ではなく、
企業が採用できる仕組みを一緒に作る伴走者
経営者の隣で、採用を数字と戦略の視点で支える存在
企業の未来を左右する採用プロジェクトの司令塔
そんな存在であるべきなのです。
採用計画の整理、求人票の改善、面接官教育、採用フローの設計―― これらはすべて、税理士事務所だからこそ提供できる支援です。
そして、採用支援は顧問先のためだけではありません。 事務所自身の成長にも直結します。
人手不足が続くこれからの時代、採用はどの企業にとっても避けられない経営課題です。 税務とは直接関係がないように見えて、実は顧問先の経営改善に深く関わるテーマでもあります。
法律上のルールを守りながら、助言・改善・事務支援という立場で関わることで、税理士事務所は採用支援でも“最も信頼できるパートナー”になれる可能性があるのです。
ただ、これまでまったく触れてこなかった業務という事務所も多く、いきなり採用支援のサービスをスタートさせるのはハードルが高いかもしれません。
そこでまずは、「どこまで採用支援ができるのか」を一緒に整理してみませんか
無料相談では、
現状の課題
改善できるポイント
事務所として提供できる支援内容
法律上の安全な支援範囲 をその場で明確にできます。
採用支援は、事務所の新しい価値になります。採用支援は事務所ごとに状況が異なるため、まずは「自分たちには何ができるのか」を整理するところから始めるのがおすすめです。
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